是枝監督が無類の本好きだと聞いて、おすすめの本はないか尋ねてみた。
すると監督は「川上弘美さんはとてもいいよ」と言う。
川上弘美さんの本は、以前『蛇を踏む』を読んで以来久しく読んでいなかったので、
別の本を読んでみることにする。
もはや本屋に行く時間はないので、昼休みパソコンでアマゾンから
大量の川上弘美作品を大人買いした。
川上さんが敬愛する内田百閧ェ度々本文に登場するのだが、
以前好きだった人も内田百閧好きだと言っていたのを思い出して、ドキリとする。
そんな事はどうでもいい。
とにかく何故こんなにグレイトな作家をスルーし続けていたのか、呆然。
彼女の本を読むと、大人の女性とはどうあるべきかを感じずには居られない。
少なくとも、自分は大人の女性ではないという事に気付いて愕然とする。
いい歳をして「大人になりたい」とはまったくもって平和ボケと言えなくはないけれど、
「大人になる」ことと「大人の女になる」事は果てしない違いがあるのだ。多分。
とにかく、お酒を飲まない私にとって自宅から成城学園までの電車の中で
川上弘美作品を読む事がこの上ないストレス解消法になっている。
川上弘美さんに感謝。
是枝監督にも感謝。
ところで今日の撮影について。
「居るよね?ああいう人」という極めてシンプルかつ容赦の無い人間描写を
否応なくされてしまう人というのが時折周囲に存在するものだが、
この映画にもそんな人が登場する。
高橋和也さん演じる長女・ちなみの夫・信夫である。
彼はYOUさん演じる妻のちなみに
「ほんといい加減なんだから!」とその適当さを指摘され、
「その特技、仕事に生かせないもんかね?」と男のプライドを揺さぶられ、
昼寝中「ほら風邪引くよ!」とタオルケットを投げつけられながらも
常に嬉しそうに佇み、妻への愛と子煩悩ぶりをいかんなく発揮する車のセールスマンだ。
謙虚なのか、ずうずうしいのか、
他人思いなのか、自己中なのか、
空気を読んでいないのか、読んでいなさそうで実は彼なりの配慮なのかさっぱり分からない、
けれど最終的にはそうみんなに憎まれる事なくすっぽり輪の中に収まって
極々マイペースかつ平和に暮らして行く「極私的スローライフな男」、それが信夫さんである。
今後の信夫さんの動きに注目したい。 |