撮影所泊まり込みの作業に備えて、家から「NIKEのヨガマット」を
仮眠の際のベッド代わりに持参した。
完全に使い方を間違えている。
ところで今日の編集に、撮影現場を手伝っている学生のT君が見学に訪れた。
彼は監督が週一回授業を受け持つ大学で聴講をしていた生徒であり、
映画監督を夢見る若き青年でもある。
持ち前の純粋さと若さ故、撮影中の監督に激しく自分の反対意見を突っ込む事数回。
その度に他のスタッフにきつくお灸をすえられ、反省し、それでもめげずに撮影所に通い続けるT君は
是枝組謎の生物として、ある意味愛され、ある意味ボコボコにされ続けていた。
そんなT君となかなかゆっくり話をする機会のなかった監督が、久々に彼にこう声をかけた。
「お前はいつも俺に言うだろ?
何でこうするんですか?なんでこうじゃないんですか?って。
お前が将来監督になった時の為に大切な事だけど、
監督は常に皆に気持ちよく仕事をしてもらわなきゃいけない。
その為には、常に具体的な提案をポジティブに投げかける事が大切。
“どうしてこうじゃないのか?”とは聞かずに、
“こうしたらよりよくなるんじゃないか?”と提案する事。
監督はな、北風と太陽の太陽にならきゃいけないんだ」
これにはT君、深くうなずいていた。
監督は撮影中も、撮影を離れても決して声を荒げて怒ることがない。
そして、可能な限り周りに意見を求め、例えそれが自らの方向性と微妙なブレを
見せていた場合でも、妥協することはないにせよ即座に否定もしない。
それはひとえに監督の性格に依るものだと思っていたが、
ある種それは撮りたい映画を撮るという自らの信念(又は欲求)を満たすために
監督が意識的に行っている、非常に平和的な作戦であることを今日知った。
人と地球にやさしい「エコなエゴ」を持ちながら、
是枝監督は己の映画世界を構築しているのかもしれない。 |