スタッフ日記
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北風と太陽
2007年8月9日   文 : 砂田麻美
写真 : 飯塚美穂

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KORE-EDA.comをご覧の皆様、いかがお過ごしでしょうか?
今年もゴールデンウィークがやってきましたが、休日に関係なく是枝監督は取材などで忙しい日々を送っているようです。
「歩いても 歩いても」の公開日も正式に決定し、雑誌媒体などで作品情報や監督のインタビューなど掲載されることも多くなってきました。
公式HPにも情報が随時更新されていますので、そちらもチェックしてみてください。

スタッフ日記もゴールデンウィークということで、いつもより多めにアップしてみました。
これまで掲載された日記もまとめて読み返せば、なお一層楽しんでいただけると思います。
公開直前までこの日記は続きますので、毎週月曜日と金曜日の更新をどうぞお楽しみに!
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撮影所泊まり込みの作業に備えて、家から「NIKEのヨガマット」を
仮眠の際のベッド代わりに持参した。
完全に使い方を間違えている。

ところで今日の編集に、撮影現場を手伝っている学生のT君が見学に訪れた。
彼は監督が週一回授業を受け持つ大学で聴講をしていた生徒であり、
映画監督を夢見る若き青年でもある。
持ち前の純粋さと若さ故、撮影中の監督に激しく自分の反対意見を突っ込む事数回。
その度に他のスタッフにきつくお灸をすえられ、反省し、それでもめげずに撮影所に通い続けるT君は
是枝組謎の生物として、ある意味愛され、ある意味ボコボコにされ続けていた。

そんなT君となかなかゆっくり話をする機会のなかった監督が、久々に彼にこう声をかけた。
「お前はいつも俺に言うだろ?
 何でこうするんですか?なんでこうじゃないんですか?って。
 お前が将来監督になった時の為に大切な事だけど、
 監督は常に皆に気持ちよく仕事をしてもらわなきゃいけない。
 その為には、常に具体的な提案をポジティブに投げかける事が大切。
 “どうしてこうじゃないのか?”とは聞かずに、
 “こうしたらよりよくなるんじゃないか?”と提案する事。
 監督はな、北風と太陽の太陽にならきゃいけないんだ」
これにはT君、深くうなずいていた。

監督は撮影中も、撮影を離れても決して声を荒げて怒ることがない。
そして、可能な限り周りに意見を求め、例えそれが自らの方向性と微妙なブレを
見せていた場合でも、妥協することはないにせよ即座に否定もしない。
それはひとえに監督の性格に依るものだと思っていたが、
ある種それは撮りたい映画を撮るという自らの信念(又は欲求)を満たすために
監督が意識的に行っている、非常に平和的な作戦であることを今日知った。
人と地球にやさしい「エコなエゴ」を持ちながら、
是枝監督は己の映画世界を構築しているのかもしれない。


 

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