スタッフ日記
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確信犯監督
2007年8月19日   文 : 砂田麻美
写真 : 飯塚美穂

『歩いても歩いても』製作発表の日。
監督、キャストが大勢のマスコミの前で勢揃いする。
出席者は16時には撮影を終えて準備に向かわなくてはならないのが・・・
監督は粘る粘る、次第に助監督、プロデューサーの目が血走っていくのが分かる。

けれども是枝監督の粘りは、この日に始まったことではない。
「時間が許す限り」という言葉は監督の為にあるのだと実感する程、
状況が絶対的に許されなくなるその瞬間まで、監督は手を動かし続ける。
以前、いつまでたっても作業をやめない監督への最終手段として、
編集室の鍵を隠した事があるとかないとか・・・。

その上監督は、予定のカットを撮り終えても尚、別のカットを撮り続ける時が多々ある。
それも母親に「今日はお菓子買わないわよ。分かった?」と念を押され、
力強く頷いたにも関わらず後に無言で籠に商品を忍ばてレジで母親を驚かすように、
スタッフが知らぬ間に監督の中ではそういう事になっている場合が多い。
けれど、たとえほんの数秒のカットを追加撮影するだけでも、
予算的にもスケジュール的にも決して少なくない変更を強いられる事になるから、
予算を管理するプロデューサーやスケジュールを切り盛りするチーフ助監督は
今日の監督は何を言い出すのか毎日冷や冷やしているようだ。
それでも事が起きればチーフ助監督の兼重さんは眉間に皺を寄せながらも
どうにかしてスケジュールを調整し、
プロデューサーの田口さんは頭を抱えながらも本日の超過予算を計算する。
その繰り返し。

が、しかし。
そうやって追加撮影したカットが、監督が行う編集では使われていない事があるから
大人の世界は恐ろしい。
日々の編集をたまたま覗きに来たチーフ助監督の兼重さんがその状況、即ち
「監督の為にムリクリ追加撮影したカットが、実際の編集では使われていない」
という事実を知るに至ると、編集室には微妙な空気が流れる結果になる。
音楽までのせて軽快に流れて行く映像を見ていると、
おもわず「いいですねー」とお手軽な感想を述べてしまいそうなものだが、そこはプロ。
「あれ?今、恭平の背中のカット。もうワンサイズヨリも撮りましたよね?」とか、
「あ、今の救急車。赤いランプが映りこんでるのも撮りましたよね。僕よく覚えています。」
と突っ込む助監督。
監督は、「あくまで、ラフ編集ですから・・・すみません」と言いながら誰とも視線を合わさない。

けれど、監督はもう一度同じ事をやるだろう。
助監督も、結局監督の願いを聞き入れるだろう。
監督が120%の満足をもって作品を作れるように、スタッフはぎりぎりまで
状況と心境の帳尻を合わせている。

助監督が部屋を出た直後、是枝監督より
「今度こういう状況になったら、助監督の前で『砂田!俺の居ない所で編集勝手にカットするなよ!!』と叫ぶからよろしく」
というお達しがあった。


 

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