私には毎日、午前中の撮影が終わると撮影済みのテープを持って編集室へと爆走し、
一人昼食を食べながらパソコンに映像を取り込むという、きもち孤独な任務が待っている。
この作業を終え再びスタジオに戻ってくると、毎日決まって目にする光景があった。
それは、「ジュースジャンケン」略して「ジュージャン」。
SWITCH 11月号に掲載された『歩いても歩いても』の記事の中で
『一方、阿部(寛)はアイスの買い出しを賭けてジャンケンをしていて・・・』と
綴られたそれである。
照明部のスタッフを中心に始められたこのジュージャン。
負けた人が参加者全員分のジュース又はアイスクリームをおごるというこの極シンプルなゲームは、
クランクイン以降徐々に参加者を増やし続け、今となっては是枝組最大の日課へと成り上がっていた。
私はいつも開始時刻ぎりぎりにスタジオに戻ってくるので、その頃は既にジャンケンが始まっている
という事がほとんどで、一度自分も参加してみたいような、正直どうでもいいような、
複雑な心持ちで楽しそうなスタッフ達の横を通り過ぎる毎日だった。
それが今日、いつもより少しばかり私の到着が早かったせいか、
スタジオの前でこれからまさにジャンケンを開始しようというチャレンジャー達が
円陣を組んでいる場面に遭遇した。
中には是枝監督の姿もある。
そのまま通りすぎようとすると、「砂田さんも、最後にどうですか!」という声が。
ちょっと恐い気もするが、せっかくお誘いいただいたので、
では記念にひとつ阿部寛さんもハマった「ジュージャン」に参加してみますかと
乗っていた自転車を脇に停め既に15人程になっていたその輪に加わってみることにした。
そして・・・速攻で負けた。
軽い目眩。
15人分のジュースを購入するという義務が突如として私にふりかかる。
このビギナーズラックに苦笑いのスタッフ達。
何が起きたのかわからぬまま呆然と立ちすくんでいると、
いつも笑顔を絶やさぬ温厚なプロデューサー田口さんが、向こうからこちらに歩いてきた。
すると、ジュージャン参加者の一人が、
「田口さんちょうどいい!砂田さんの敗者復活戦ということで一騎撃ちしてくだい!」
とかなり気のきいた提案をする。
よって田口さんは状況がつかめぬまま周りの勢いで参戦することになった。
20人近いギャラリーが見守る最終決定戦。
私はチョキを、そして彼は五本指をみごとに開いた。
その瞬間、全く罪の無い通りがかりのプロデューサー田口さんは、
突如として15人分のジュースを購入する全責任を負った。
けれど私は完全に気付いていた。
田口さんが“パー”を出すその動きが、零コンマ何秒という微妙な速度で
チョキを出す私より遅かったことに・・・。
初めて出会った時から思っていたのだが、田口さんは本当に空気の読める
素晴らしいプロデューサーだと思う。
ただ、お財布からお金を抜き出す田口さんの手つきがかすかに荒々しかったのは・・・、
多分私の思い過ごしだろうか?
きっとそうに違いない。 |