スタッフ日記
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赤い電車
2007年8月28日   文 : 砂田麻美
写真 : 飯塚美穂

葉山のバス停で、役者陣最後の撮影。
最後まで残っていたあつし役の祥平君は、
照明チームから特製の照明道具を贈呈されて満面の笑み。
彼にとって、楽しくて楽しくて仕方の無い夏であったらいいなと思う。
是枝監督も、「あのまま大きくなってほしいなぁ」とぽつりと呟いていた。

その後、一部のスタッフで京浜急行の列車撮影へ向かう。
しかし少人数でのんびりと撮影の準備をしていたら、監督が居ない事に気付く。
辺りを見回しても姿が見えない。これで監督が居なくなったのは2度目だ。
私が遭遇しただけで2度目だから、
おそらく実際はかなりの回数行方不明になっていることと想像する。
携帯電話にかけてみたのだがDoCoMoのお姉さんがやさしいけれど機械的な声で
「出れません」と語るばかりなので、
製作担当の三辺さんと手分けして探してみる。
するとしばらくして、坂の向こうからゆっくりと監督がやってきた。
こういう時、監督はいつも「悪い悪い!」とか言いながら小走りに走って来たりはしない。
何事もなかったかのように、向こうで何か素晴らしいものを発見したのだが
それを誰にも言わずに内緒にしておこうと思った子供のように、
無表情でゆっくりと戻ってくるのが常だ。
そうやって帰って来た監督を、皆そういうものだという風に受け入れる。
7月下旬、衣装合わせにやってきた監督を迎えた時と、まるで同じだ。
それが是枝監督であり、是枝組なのだということを、今は私も知っている。

線路脇の空き地にカメラを据えて、赤い電車が行ったり来たりするのを
皆で冗談を言いながらフィルムにおさめた。
一面のススキが生暖かい風に揺れている。
夏も、もうすぐ終わりみたいだ。
映画というのは、本来こうやって周りをとりまく世界を皮膚で感じながら
作るべきものなんだということに、今日やっと気付いた気がする。


 

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