撮影日最後の今日は、インサートカットと呼ばれる映像の撮影。
横山家の内部にある様々な物、風景を切り取っていく。
役者陣によるお芝居はないので、とても静かな最後の撮影だ。
全ての撮影が終わると、セット内でビールやジュースを持ち、
ささやかな打ち上げが行われた。
おだやかな、是枝組らしい終わりの時。
すると、撮影部の男性スタッフTさんと、製作進行の女性スタッフMちゃんが
このたび晴れておつきあいを始めたという衝撃的な発表が。
何でもこの映画の撮影中に交際スタートさせたという。
この撮影中に恋愛!?
何かの冗談ではないかと目が丸くなる。
だってさぁ、製作部の人数が少なくて死にそうだって
Mちゃんクランクイン前日に泣きべそをかいていたから、
夜一緒に大量のフルーツゼリーを車まで運んだではないか。
そんな彼女が、人知れず恋を・・・。
仕事上過酷な状況で恋をするとは、
「マッサージを受けながら小説を書く」とか、
「上司にひどく怒られながら飲み会の場所を皆に連絡する」とか、
二つ同時には出来ない事の一つではないでしょうか?
すると監督がこう言った。
「馬鹿だな、砂田。余裕がないからこそ、恋に落ちるんだよ」
世界のコレエダは、一枚上手でした。
二人は、セットの縁側に並んで腰を降ろし、まるで婚約会見かのように微笑んでいる。
ここ、一応職場ですが・・・。
それでもどこまでも幸せそうな二人を見ていたら、
本当に撮影が終わったのだなと実感してきた。
けれど私の仕事はまだこれからも続く。
焼き付けられたフィルムを映画という形に変化させていく過程が残っている。
編集という作業を通じて、この映画が一体どんな世界によって
紡がれた物語であるのかを、今より鮮明に理解したい。
それが、この夏私がした仕事だったから。
「砂田、そろそろはじめるぞー」
遠くで監督の声がする。
監督は今日もぎりぎりまで粘るだろう。
さあ、仕事に戻ろう。 |