男性 : 渡辺さんの奥さんが「京子さん」というのは、監督の個人的な思い入れがあるんでしょうか?他の役者の方は名前が(実際の名前と)共通してないと思うんですが。
是枝 : えーと…(客席後方のプロデューサーに)香川さんに決まってから京子ってつけたっけ?違う?…あの、京子さんという名前について、僕の個人的なアレはないです。
男性 : いや、ファンだと伺ったので。
是枝 : ああ、それで香川さんにやっていただけることが決まって、うん、嬉しかったんですけど…
男性 : じゃあ、里中しおりが一年前に死んだってことなんですけど、その時の面接担当者は望月だったんでしょうか?(客席爆笑)
是枝 : 僕はそのつもりではあるんですけど、ええ。ハイ。なんにも説明はしてないんですけどね。ただ、伊勢谷くんが寺島さんのアシスタントに入るという、そこから想像すると、そういうふうに考えていただいて構いません。
男性 : 考えたんですけど、里中しおりが選択しなかったのは、そのときすでに望月にある感情を抱いてしまったんじゃないかと。(客席爆笑)で、その時点でもう選ぶ気がなかったんじゃないかと。そういうことも考えられるんじゃないかと。
是枝 : なるほどねえ。あるかもしれませんね。そういうふうに考えてはいなかったんですけど、そうかもしれませんね。うん。なるほど。
男性 : 監督が今回作るときに、こんな人達に観てほしいなという対象がありながら、作りながら絞りこんでいったのか、結果的に−老若男女いろいろいるじゃないですか−こういう人達に伝えたいと思ったのか…最初から明確な伝えたい対象があったんでしょうか。
是枝 : うーん…最初に考えたのはね、自分の両親なんだよね。観てもらいたいと思ったのは。ほんとはそこからなんですけど、ただ作ってるうちに「いろんな世代の人達によっていろんなことが語られるようになるといいな」と思って。
最初は小田エリカさんがやったしおりっていう役はなかったんですけど、若い人達にどの辺をたよりに観てもらおうかなと思ったときに、10代の女の子の視点を入れたらどうかなと思ったりして、それでああいうバランスのキャスティングになってるんですけれども。
男性 : けっこう今回若い世代が観たときに、ある意味こわいなっていうか、自分だったらどうしようって思ったりするんじゃないかと思うんですけど、それは最初は考えてなかった?
是枝 : それは後からついてきたっていうところがある。だから、今日も劇場は若い人達がいっぱいいるし、ホームページに送られてくる感想も10代とか20代の人のものが多くて、実はね、自分でも驚いてる。ちょうど自分の居場所とか存在意義みたいなものを探りつつ悩んでる年代の人たちが、この映画の設定に敏感に反応してくれて、自分のことを映画をきっかけに考えてくれているのだとしたら、それは本当に、計算していたわけではないけどありがたいです。自分というもののとらえ方が、他人の記憶に中にいる自分も自分の一部なんだというように、少しちがった観方をしてもらえるようなきっかけになればと思ってます。
男性 : 前作の「幻の光」も女性の幸せについての話で、今回もドキュメンタリー調ではあるんですけれども…監督自身女性になりきれるほうなんでしょうか?
(客席爆笑)
是枝 : ああ、いえ、全然。
あんまり撮ってる方はね、なりきるって感じじゃないんですよ。演ってくれてる役者さんに対しても役になりきってくれなんて気はしないしね。あんまり感情の内側に入り込んで描くっていうよりも、どっちかっていうと、カメラポジション的には一人の人間を外側からじっとみつめていく、っていう感じなんですよね。たまたま女性がメインの映画が続きましたけど、女性にこだわってるわけでもないです。
男性 : 三作目は男性が主役とかってことは…
是枝 : うん、三作目は男性が主役でやろうと思ってます。ハイ。
男性 : 今度はどんな内容の…
是枝 : いや、まだ全然決めてなくて。どうしようと思ってるんですけど。
今回一緒にやった、ARATAくんとか伊勢谷くんとの撮影が、すごく面白かったんで、彼等達と一緒に何か、という気持ちが今はあります。テーマとかはないんですよ、まだ。早めに決めたいんですけど。脚本を作らずに現場で一緒に作っていくって感じのものをやってみようかな、って漠然と思ってます。まだちょっと、これが具体的になるのは先になると思うんですけど。
今回あんまり脚本を固めずに現場で撮って、それが楽しかったもんですから、それを踏襲してみようかなと思ってます。
男性 : 土曜日の夜にARATAさんの部屋に女の子が来るシーンで、あそこはアップで表情を撮ってみせるシーンかなと思ったんですけど、なぜああいう撮り方をしたんでしょうか。
是枝 : ……なんでっていうのはすごく難しいんだけどな…あそこは引きだって思ったんだよね最初から。で、だんだんだんだん、こう、窓の外から差してくる明かりが少しずつ変化してくるので時間の流れを出したかったのと…。
あと、けっこうね、かなりストレートに言葉になってる部分が−いろんな気持ちだとか、彼等の行為の背景とか−で、聞いてほしいシーンなので、ちょっと表情をはっきり出さずに、耳を傾けてほしいなあと思ったんですけれども。
「幻の光」のときは、300カットくらいあって、全部最初にコンテ書いたんですよ。このカットのシーンはこういう感じで、このくらいのバスト(ショット)とか。全部仕上げてから撮影に入ったんですけど、なんとなく現場でそれに縛られちゃってる自分がいて。
今回はそういう最初に絵を決めてっていう撮影スタイルをとらなかったのね。現場に入ってその場にいる人達を見て、カメラマンの人と、カメラをどう撮ってくか、どう見つめてくか、っていうことから構図とかアングルとかを決めていこう、っていう感じだったので…あんまりね、構図とかっていうのは説明がつかない感じ。うん。
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