女性2 : 生きるってことは赤い血を流すことだと思うんです。赤い火を燃やす行為が血につながり血が生きることにつながる。だからそれを選んだのではないかと。

是枝 : おもしろいですね。この映画、いろんなところに火と水が象徴的にも具体的にも出てくるんですね。伊勢谷君がはじめにしていたゲームは消防士のゲームでして。だからちっちゃいところも入れて、いろんなところで火と水が持っているイメージを描こうと思って。撮影の前にARATA君と人が生まれる時と死ぬ時は水と火を使うという話をしたことがあって・・・。

ARATA : 人が生まれた時の産湯は火で暖めるし、死んだ時は火で燃やされる。

是枝 : プロットを作る時にそんな話をしてたことを、質問を聞いていて思い出しました。



女性3 : 早稲田大学文学部にいます。監督の後輩です。文学と映像の違いってなんですか。なぜ映像を選んだのでしょうか。

是枝 : もともと小説を書こうと思ってたけど、学校がつまんなくて行かなくなった。大学の頃から、映画を監督の名前で見るようになってはまった。でも集団作業がその頃苦手だったから、まずは脚本を書こうと思った。小説を脚本に方向転換したんです。でもそれがすぐ仕事になるわけじゃないので、なにか映像に関わりながら生きていけたらいいなと考えるようになっていきました。文学と映像の違いは難しいけど、僕まだ根っこに活字の発想とか文章の構築がある。映画というのは文学とは違う文法、違うリズムがあるんだけど、どうしても言葉のリズムに近いところで映画をとらえてしまう傾向があって、どうやったら映像のリズムをとらえられるかが僕の課題なんです。今でもその違いについて考えています。答えはまだ出ていませんが、確実に違うと思います。



女性4 : 俳優とのコラボレーションと監督の内面にあったオウムを題材としたテーマ性は、どの程度バランスがとれて、どの程度実行できているのでしょうか?

是枝 : テーマを煮詰める作業は、かなり時間をかけてやりました。でも現場では逆にテーマに引きずられないように、シチュエーションとキャラクターを受け止めた役者から出てくる表現がどうやったらリアリティを持つかとということに集中した。それは引き出せたと思う。

女性4 : ARATA君が神について語っているシーンは、りょうさんとのシーンをふまえているのか、それともARATA君として話しているのかわからなかったのですが。

是枝 : あのシーンは、伊勢谷君は自分で考えているけど、ARATA君にはこんな話をしてくださいとテーマ性を含んだものを渡していて、それを普通のやり取りに紛れ込ませて話してもらってるんですよ。伊勢谷君は知らないでフリートークだと思って話しているんですけどね(笑)。

ARATA騙されてるんですよね。あの人は(笑)

是枝 : あそこでのARATA君の話に関しては、りょうさんとの関係も含めて、それが壊れたあと残された彼が話す言葉としては、一貫性を持たせたつもりではいます。

ARATA : あのシーンは、1時間ぐらい2人で話をしてて、自分の気持ちがダーッと出ることもあってどんどん話がずれていって、どこで監督から言われていた話を出そうかと・・・。映画で使っているのは監督からこういう話をしてくださいと言われたところです。

是枝 : いい撮影だったよね。



男性2 : 桟橋にあるボートは、使わないのになぜあそこにあるんですか?

是枝 : 最初の設定はもっと大きい湖で、ボートで真中まで行って花を浮かべて帰るというシチュエーションだったんですけど、ロケハンに行ったときに、湖が小さいのでボートはやめて桟橋にしようという話になった。ボートを沈めたのは美術の方から出てきたアイディアで、教団の名前を箱舟とつけたこともあって面白いなと思って、そのアイディアをいただきました。

男性2 :
あの船があったから、浅野さんが向こう岸に行ったことがあると言ったのは嘘だと思った。湖はきれいだったけど怖かった。向こうにいったら死んでしまう三途の川のようだったんですが。

是枝 : 僕もそう感じました。あの湖は生と死、両方持っていて、途中まで桟橋がかかっていておもしろい。あのシーンのセリフは、2人のアドリブなんですよ。10分間ぐらい話してもらって、あなたが言ったように、あのやり取りから"向こう側"に別の意味が生まれるかなと思って入れたシーンなんですよ。


(ここで 「様子を見に来ただけ」という撮影監督の山崎さんが監督から紹介される)


是枝 : 今回山崎さんはほとんどカメラは手持ちで、湖や山道を一度も転ばずに撮りきってくれました。ライトも使わず自然光で。スタッフの中で群を抜いて最年長だったんですが、一番元気ですばらしい撮影でした。ありがとうございました。(場内から拍手)

みなさんの中で『ディスタンス』が、膨らんだり広がったりしていけばと良いなと思っています。遅くまでありがとうございました。
 
         
       

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