僕が希林さんとご一緒したのは、彼女の長いキャリアの中で最後の10年ちょっとに過ぎませんが、監督と役者という関係を超えて、とても濃密な、楽しい時間を共有させて頂き、感謝の気持ちでいっぱいです。
今年の3月に癌の骨への転移を知らされたのですが、言葉を失う僕たちスタッフを逆に気遣いながら本人はすぐに終活に入られたようでした。ご一緒した映画祭や公開初日の舞台挨拶では、ご自身の中に残ったエネルギーと冷静に向き合い、コントロールされながら、それでも役者の仕事を全うされようとしているその姿勢に頭が下がりました。
ただ、ご自身のことは役者、女優という側面とは別に、タレント、芸能人と捉えられているところがあり、自分が芸能人として、同時代にどんな価値を持つのか?テレビに出てその反射神経を確かめている、といった趣旨の発言も度々されていて、テレビ出身の僕としては、その「雑味」をあえて捨てようとしないところも希林さんの大きな魅力のひとつでした。
身体が弱ってからもどこかその、初めての体験を面白がっているようなところがあり、凄みと軽やかさの同居した姿は、神々しくさえありました。
『万引き家族』公開後は、お茶にお誘いしても「あなたはもう、お婆さんのことは忘れて、若い人と会いなさい」と電話で病状について何度かお話しただけで、直接会うことは叶いませんでしたが、お通夜の席で3ヶ月ぶりにお会いした希林さんは、とても穏やかな、安心仕切った表情をされていました。
最期の瞬間まで、本当に見事な、いかにも希林さんらしい人生の締めくくり方をされたのではないか、と思います。
もう、杉村春子さんや、森繁久弥さんや、久世光彦さんの、モノマネを混じえた楽しいお話を伺えないのは本当に寂しいですが、心よりご冥福をお祈りいたします。ありがとうございました。
映画監督 是枝裕和